日本でライダースジャケット云々の話になりますと、多くの方が「そりゃアメリカが本場よ」となるんですがバイクの生活への密着度というか文化度はアメリカ、日本に比べて、ヨーロッパの方が遥かに深くて広く、且つ進んでいるのが現実かもしれません。
まぁ、民族性とか地理的特性の影響が大きいんでしょうが、「デカくて強い=パワーが命っ!」のアメリカバイク文化に比べりゃ、ヨーロッパのバイクとバイクライフの多様性は見事ですよね。上質なツアラー、イタリアの熱きスーパースポーツ、使い勝手のいいスクーターにおしゃれさんの乗るモペットなどなど・・・。今回のお題となるルイス・レザーズのあるイギリスでもノートンやトライアンフなどのバイクを中心に独自のバイク文化を持っておりました。
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ルイス・レザーズのCyclone(サイクロン)
70年代のイギリスメイドのWライダースだ。
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ところが、古今東西、エネルギーの有り余った若モンちゅうのはいっぺんくらいは「既存の社会体制や慣習なんかクソ喰らえっ!」と思うようでして、1950年代のイギリスにも既存の文化に飽き足りずに刺激に飢えた若モンたちがぎょーさんおったみたいです。
そんなところへ、ハリウッド映画「TheWild One」(邦題、乱暴者、1953年12月公開)の登場です。当のアメリカですら、思春期の若者に悪影響を与えるとこのことで、社会問題化してしまい、多くの学校でライジャケ着用が禁止されちゃったような影響大の映画を不良したくてたまらん彼らが見逃すはずはありませんでした。
(拙者はイギリス=紳士の国なんてステレオタイプなイメージを持っとりましたが、ラグビーが人気あったり、タチの悪いフーリガンがぎょーさんおったり、どう見ても血の気の多い国民ですぜ、皆さん。)
結果的には「The Wild One」は政府の検閲で公開が禁止され、英国上陸は果たせなかったんですが、この映画の影響でアメリカで起こったムーブメントは案の定イギリスに飛び火し、'70年代にまで続くロンドン=イギリスの一大ムーブメント“ロッカーズ”を生み出すことになりました。
そして、このロッカーズというムーブメントをファッション面で支えたのが何を隠そうロンドンのレザーブランド「ルイス・レザーズ」だったんです。
さて、ロッカーズを引っ張ったルイス・レザーズについてですが、1897年、英国ロンドンのグレイトポートランドで紳士用品店「D.Lewis&Sons」としてスタートしました。レザーウェアの製作に着手したのは1926年。
当時成長産業であった航空産業の需要に応えて「AVIAKIT」ブランドを立ち上げ、パイロットの間でその名が広まりました。1930年代には(軍用)バイクの登場により市場が拡大し、ルイス・レザーズはバイクウェアとしての評価を得るようになりました。
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ルイス・レザーズの代表的ブランドであるAVIAKIT。 |
前述したように、'50年代には「The Wild One」が英国の若者にも多大な影響を及ぼすんですが、ルイス・レザーズはその機を逃さず、アメリカからデザイナーのバッド・ギャンズを招き、いち早くWライダースジャケットを販売することでロンドンの若者に絶大な指示を受けるようになりました。んでもって社名も「D.Lewis LTD」に変更。
続く1960年代のロッカーズ全盛期にも、ルイス・レザーズは独自のスタイルを次々と発表、更にレース業界にまで進出し、同じく全盛期を迎えることになりました。当時はイギリス全土は勿論、ヨーロッパ各地からもルイス・レザーズのライダースジャケットを求める人たちがロンドンを訪れたなんて言われとります。
70年代に入り、ロッカーズが自然消滅するとルイスレザーズも衰退の一途をたどることになりまして、この時期以降ルイス・レザーズは次々と身売りを繰り返しちゃうんですね。このあたりの詳細は当サイトの
「ブランド&モデル解説」をご覧下さい。
特にに80年代半ば以降はクオリティの著しい低下や生産も不安定になってしまい、80年代末から90年代半ばまでは実質的に消滅状態でありました。しかし、90年代入って起こったロッカーズ・リヴァイバルを背景に、日本のUKショップ「666」の強力な後押しによって、現在、ルイス・レザーズは復活を果たしてます。
今回紹介するのは、ルイス・レザーズの代表的ブランド「AVIAKIT」から70年代のCyclon(サイクロン)です。(ってか、すでに70年代のモノがビンテージ扱いだなんて拙者も歳くったんだなぁ〜。)
ルイス・レザーズは全盛期の60年代から70年代にかけて、結構多くのライジャケモデルをリリースしてるんですが、このサイクロンはスターライトニングのマイナーチェンジタイプと言われとります。(60〜70年代の主なモデルは、Bronx(ブロンクス)、Lightning(ライトニング)、Star Lightning(スターライトニング)、Dominator(ドミネーター)、Thunderbolt(サンダーボルト)てなところです。)
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「CLIX」のジッパー |
さて、このサイクロンですが、使ってる革や縫製なんて別段変わってるものでもありません。ぶっちゃけて言っちゃえば、Schottのライダースより若干しっかりした革を使ってるかな〜てなもんです。ディテールには勿論ルイス・レザーズのオリジナリティが見られるんですが、なんといってもアメリカから輸入したスタイルですから、アメモノとそう違いはないです。
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メイン以外のジッパーにはボールチェーン?の引き手が付いている。
ルイス・レザーズのライジャケの特徴のひとつ。
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とまぁ、こう書いちゃうと身もふたもないのですが、コイツがそこらのライジャケと決定的に違う点がひとつあるんですね。それはコイツが濃い紫っちゅうボディカラーをしてることです。む、む、紫ですぜ、奥さんっ!「関西のオバハンの派手なカーディガンちゃうっちゅうねんっ!!」と突っ込みたくなろうてなもんですが、実物を見ると、「結構いいやん、これ」となってしまいます、ハイ。
70年代にはルイス・レザーズから、真っ赤なWライダースとか、キレーに真っ青のWライダースなどが多くリリースされましたが、既成概念にとらわれないこの大胆な色使いこそがルイス・レザーズの真骨頂かもしれません。なんせ、今見るととても新鮮だったりするんです、いやほんま。
エアロレザー、イーストマンなど、イギリスには非常にクオリティの高いライジャケ・フラジャケを作るメーカーがあるのは、すでに月刊タフジャケでご紹介した通り。でも、21世紀になったことだし、社会も大きく変わってる今、新しいモノを生み出すためのチャレンジスピリッツ、遊びゴコロてなもんも是非欲しい。新生ルイス・レザーズにはそういうものを期待してしまいます。
新たなるムーブメントの創造・・・頼みますぜっ、ルイス・レザーズさん!